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ユニークだけじゃない「おはじきサッカー」 日本おはじきサッカー協会代表理事の鴻井健三さんに聞く

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 「奈良の大仏さん」で知られる東大寺や五重塔の興福寺、奈良県庁や奈良国立博物館などに隣接する「奈良公園バスターミナル」1階で1月12日、「おはじきサッカー(スポーツテーブルフットボール)」の奈良で初めてとなる公式戦が開催された。

 同ターミナルは国内外の観光客や地元の人が多く訪れることから「おはじきサッカー」を広く知ってもらうため、試合を間近で見て気軽に体験できるようにオープンエリアで行った。通行人らは写真を撮ったり、関係者からルールを聞いたり、多くの人が足を止めて興味を示した。

 「おはじきサッカー」が教育・医療でも期待されることについて、日本おはじきサッカー協会代表理事の鴻井健三さんに話を聞いた。

-「おはじきサッカー」について教えて下さい。

鴻井 サッカー選手のフィギュアが載っている11のコマを「おはじき」の要領で、指ではじき、ボールをキックし、ドリブルしながらゴールを目指します。サッカーと同じように戦術があり、パスをつないでゲームを組み立てていく。早い攻めのカウンター攻撃や「FCバルセロナ」のようなパス回しなど、プレーヤーの個性が出る楽しみがある。ルールは、フリーキック、コーナーキック、PKなどサッカーにあるものは全てある。

 W杯もあり、ヨーロッパで2年に一度、約33カ国が参加し開催される。強豪チームとして知られているのはイタリア代表とスペイン代表の二強で、特にイタリアはどのカテゴリーでも強く、サッカーが強い国がおはじきサッカーも強い傾向があるのも興味深い。

ワールドカップの様子

 場合によっては「馬鹿げたゲーム、普通のサッカーをやればいいじゃないか」と言われるが、真面目に本気でやっている。子どもから大人まで年代や男女を問わず、障がいの有無にかかわらず楽しめるスポーツ。

 「真面目に本気で」の持つ意味

-クラブチームの活動状況を教えて下さい。

鴻井 国内には13のクラブチームがあり、特に神奈川や東京で活発に活動している。奈良にはこれまで、おはじきサッカーのクラブチームは無かったが、イギリス・マンチェスター出身の英会話講師、Bill Wright(ビル・ライト)さんが、Jリーグ入りを目指すJFL所属のサッカークラブ「奈良クラブ」のボランティアスタッフであり、2019シーズンからホームゲームでサッカー観戦に来た人に「おはじきサッカー」を楽しむブースを提供している。

 英会話講師仲間らと共に英語を交えながらコミュニケーションができる人気のブース。奈良にもっと根付かせていきたいと昨年9月に、日本おはじきサッカー協会の「奈良クラブサブテオ」を発足させた。

-鴻井さんは「おはじきサッカー」に出合う前から「おはじき」が持つ可能性を説いていたそうですが…。

鴻井 「おはじき」をはじくことは、指の巧緻(こうち)動作がうまくできないと細かく調整することは難しく、スピード、方向、力のコントロールが必要です。

 手のセラピスト・作業療法士として救命救急センターで30年以上勤め、リハビリの手技として「おはじき」を取り入れていました。人間の治癒力や喜びは、ちょっとした、例えば「指ではじくことが出来た」などから生まれる。患者さんのうれしそうな表情が物語っていた。「指を動かしてください」と言うよりも、日本では古くからおはじきの文化があるからこそ脳のプログラムにある中枢に「おはじきは指で軽くはじくもの」とプリセットされていて、それを引き出すリハビリはとても大きな意味がある。スポーツとしては、指一本ではじくので、事故や病気で障がいがある人でも世界を目指せる。

ここで、米田栄子さん(桜木町TFC)、幾度(きど)貴文さん(桜木町TFC)にも聞いた。

-米田さんは「おはじきサッカー」で入院生活の質を上げる取り組みをされていたと聞きましたが…。

米田 神奈川県立こども医療センターで保育士をしていたとき、学童期の子どもたちが長期入院する病棟で、何か楽しく過ごせる遊びはないか模索していたときに「おはじきサッカー」を知った。サッカーをしていたけれど、病気でできなくなってしまい、「おはじきサッカー」ならできると楽しそうに遊ぶ子もいた。

-幾度さんはその病院で子どもたちに「おはじきサッカー」を楽しんでもらうボランティア活動をされていたそうですね。

幾度 大学生のときにしていました。血液の病気と闘う子どもたちが長い入院生活で遊びを通して真剣になれたのがこのスポーツでした。体力があまりない状態や動きが制限されている状態でも、好きなことを見つけられたと集中して取り組む子や、外部からやって来る私たちとの触れ合いで、生き生きと活性化する様子も印象的でした。

-それらの経験で学ぶこともあったのでは?
 
幾度 現在、日本スポーツ協会で働いているがきっかけは「おはじきサッカー」を知り、病院での子どもたちとの交流や、スポーツを通しての感情表現、地域交流でのスポーツの価値に触れることができ、スポーツが持つ多様な可能性に確信が持てた。それらを生かせる仕事に就きたかったのです。「おはじきサッカー」と出合ってなければ、これほどまで国際交流や多様な価値観を学べなかったと思う。

さまざまな人とコミュニケーションできるこのスポーツを知って、世界へ視野を広げてほしい

-「おはじきサッカー」には魅力がいっぱいあるのですね。

鴻井 欧米では娯楽としてはもちろん、教育、医療、リハビリ、認知症のプログラムに取り入れられている。視察したスペインの学校では体育の授業に取り入れられていた。貧富の差が大きく、貧困などにより、スポーツをしたくても道具を買えない、教育の場がない子どもたちは多い。スポーツも学問もお金がある人しかできず、人とのコミュニケーションを持たない電子ゲームだけを与えられ過ごす子も。子育てに向き合おうとしない親もいるのです。

 これは日本でも共通することであり、そのような日常から抜け出してほしい。さまざまな人とコミュニケーションできるこのスポーツを知って、世界へ視野を広げてほしい。言葉がしゃべれなくてもこのスポーツは世界中の人とコミュニケーションが取れて、W杯など世界へ行くことも夢ではないということを知ってほしい。

-最後に、クラブチームはどのような思いで運営しているのですか。

鴻井 現在、関東に多いのですが、神奈川7チーム、東京4チーム、関西は大阪と神戸と、設立したばかりの奈良のチームがあります。地域の青少年センターや、コミュニティーセンターで生涯学習の事業として取り入れるところも増え、東京都足立区では地域学習センターなどで活動が活発で、毎週欠かさず練習や体験会を行っている。最近では、小学校の授業で教えることもあり、小さい子から大人まで楽しんで、世界でコミュニティーをつないでいく夢を持ってほしい。

小学校での体験授業の様子

 日本では昔からおはじきの文化がある。その意味でも「おはじきサッカー」に強くなる要素を持っている国だと思う。今は残念ながら日本ではあまり知られておらず、競技人口は約120人と言われている。見方を変えると、第一人者になりやすく、日本代表となり世界でプレーをする機会も目の前に広がっている。このスポーツを楽しみ、世界大会に出場し、優勝するという日を一緒に目指したいと思っています。

-ありがとうございました。

「おはじきサッカー ウインタートーナメント2020奈良」決勝戦の様子

15人の選手が出場した「おはじきサッカー ウインタートーナメント2020奈良」は、優勝=横浜市(桜木町TFC)の幾度貴文さん、準優勝=東京都足立区(SC Reeds)の時田貴史さんだった。ギャラリーがざわめく場面が多い見応えのある攻防戦で、延長戦の末2-1で幾度さんが勝利。

優勝した幾度さん

「あいつは強いと思われる選手になるのが目標。必ずW杯に行きたい」と意気込みを見せ、「奈良で『おはじきサッカー』が根付き、地域活性化を担ってほしい」と期待を込めた。


日本おはじきサッカー協会http://nosk.jp/

 

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