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「生まれてきて良かったと感じる、医療以外のサポートが必要」―奈良親子レスパイトハウスについて富和清隆さんに聞く

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 東大寺境内にある「奈良親子レスパイトハウス」(奈良市雑司町、TEL 090-3659-6332)で難病や重い障がいを持ち在宅で治療を続ける子どもとその家族に、宿泊して奈良の文化・自然に触れてもらい、息抜きと生きる喜びを感じてもらう取り組みが2010年に始まり9年がたつ。

  同施設の活動について東大寺福祉事業団理事長で東大寺福祉療育病院院長でもある、「奈良親子レスパイトハウス」代表幹事の富和(とみわ)清隆さんに話を聞いた。

バリアフリーよりも大切なフリーバリアな関係性

-この施設は東大寺境内にあるのですね。

富和 そうなんです。大仏殿の西側、東大寺学園幼稚園の東隣に位置しますが、境内はとても広く一般的な観光ルートでは通らない場所です。職員の宿舎だったものを東大寺が無償で貸してくれたもので、寺の景観になじんでいるのも特徴です。

-奈良親子レスパイトハウスの活動はどのようなものでしょうか。

富和 医療の進歩で難病や重度の障がいがある子どもも家で生活できるようになってきたが、在宅医療は家族によるケアが中心となるので大変なことも増えている。365日24時間、気の抜けない関わりが必要で、病院以外に外出したことが無い家族も多く、たまには息抜きをしてもらいたいと思う。

 医療は命を助けるだけでなく、生まれてきて良かったと感じてもらえるサポートが必要と考えます。

-医療の進歩とともに増えている新たな課題でしょうか。

富和 制度としては病院や施設へのレスパイト入院、短期入所はあります。でも、もともと数が少ないことに加え、いくつか課題があります。預かってもらえるのはいいが、「子どもに申し訳ない」という思いが親につきまといがち。

 病気で入院するならともかく、治療以外の目的で預けられると子どもは不安な気持ちになる。スタッフにとっても普段の生活を知らない子どもを預かるのはプロとはいえ大変なことです。

-具体的にはどのようなものが求められるのですか。

富和 30数年前にイギリスで始まった「子どもホスピス」の活動に触れる機会があり、その理念に感銘を受けた。単に治療する、あるいは親のために一時的に子どもを預かるのではなく、「家族が一緒にほっとできる場を作りたい。しかも奈良で」という思いで活動を始めました。

 難病や障がいを抱えた子どものケアをする家族の休息のための施設で、その子だけでなく親や兄弟など家族全員の支援も行う。それぞれの専門家や得意分野のサポーターが、奈良滞在中は手伝いをして一緒に時間を過ごす。家族からのリクエストに合わせて毎回どんな風に過ごしてもらおうかとサポーターが考え工夫します。

-大切にしているのはどんなことでしょうか。

富和 大切な目標の「3つの柱」があり、1つ目の「奈良を味わう」は、奈良のおいしいものを奈良の材料で奈良の人が心を込めて作り食べてもらうこと。

 2つ目の「寧楽(なら)に遊ぶ」は、東大寺や若草山などの見どころを、普段は家から出られない家族に楽しんでもらったり、鹿と触れ合ったり、奈良の良さや文化を体感してもらったりすること。

 3つ目の「善(よ)き友に会う」は、いつもは出会わない人や、仕事の関係性ではない人、一生のうちで出会えて良かったと思える出会いのこと。本来は親子や家族の関係も「善き友」であり、「この子の親で良かった」「この家庭で良かった」としみじみ感じてもらうことが大切。

-これまでの利用状況を教えてください。

富和 真冬や真夏は子どもの体調管理を考えると避けるべきなので、4月の終わりごろ~12月初めごろに、一月2組ほど。宿泊か、体力を有さない人は日帰りを選ぶ方も。これまでの9 年で宿泊は130家族を迎えてきた。

 利用したい場合はまず主治医に相談し「どんな準備が必要か。どんな食べ物が食べられるか」を話し合い、紹介してもらう。利用は無料です。これまで滋賀・尼崎・京都などから来てもらっている。

 医療のサポート面については、主治医もしくはそれに準ずる看護師など、その子を普段からよく知っている人が付き添うことが条件です。 このことには抵抗を感じる医師もいるかと思ったが、「勉強になる良い時間だった」「親御さんと酒を飲み交わし、いろいろな話ができ主治医冥利(みょうり)に尽きる」という感想が聞かれた。医師も家族も患者も「善き友」ということなんです。

-サポーターにはどのような方がいますか。

富和 現在300人のサポーターが、それぞれの得意分野を生かして料理、建物の管理、庭の世話、薬草の専門知識、庭師、薬草園の世話、歴史の専門知識などボランティアで参加しています。 利用者を受け入れる際、 多くのサポーターが集まり計25人ほどの食事が必要となる。

 メニューを考えたり、買い物に行ったり、食器の用意もあったりするので食事に関することのサポーターが多く必要になります。 大変ではあるが楽しみながらやっているのが特徴で、利用者のリクエストも考慮し、どんな順番で提供するのかなど2~3週間前に集まって考えるのも楽しいプロセスです。

-利用時に過ごす建物について教えて下さい。

富和 和室で家族がくつろいでいるのがそれとなく見え、キッチンのサポーターの様子も見える。プライバシーよりもどちらかというと、いろいろなバリアをみんなで減らしていき親しくなる方向です。かと言って気持ちにズカズカと入るのではなく、「2日間一緒に過ごす仲間と一緒に楽しもう」と思えると心地いい時になる。

-工夫した点はどんなところですか?

富和 キッチンサロンは新たに建て直し、庭もありキッチンとミーティングルームを兼ねている。窓から大仏殿が見えることと、大きく開放できる掃き出し窓に濡れ縁を付けて、サロンと庭につながりをつくることにこだわった。

 いくつかの建築の大学院生の卒業研究にしてもらい、どのような考え方を取り入れた建物が良いのかコンペで選んだ。利用者の声を聞き、例えば風呂は「特別な仕様よりもいつも使っている家庭用のものが慣れていていい。 むしろ脱衣場を広く暖かくしてほしい」 という意見を取り入れた。

-バリアフリーにこだわらないのですか。

富和 私たちは 「バリアフリーよりもフリーバリア」という考え方です。バリアはあってもいいのです。というか、世の中にはバリアがあるのです。バリアフリーにすることで、むしろ人は疎遠になる。自立するのは良いようだけど、それだけではダメ。例えば段差をスロープにすれば上ったり降りたり自分でできる人もいるが、みんながそういう訳にはいかない。

 バリアがあるときにはお互いに声を掛け合って手助けする。車イスが通れないときは手伝ってくれる人が3~4人いれば協力して乗り越えられるのです。だからあえてバリアフリーにしていない。

-大仏殿が見える庭が印象的ですね。

富和 庭はサポーターみんなで作った自慢の庭。樹木医から手入れ方法やこの景観にふさわしい木を教えてもらった。庭の舗装についてはサポーターに元奈良文化財研究所の方がいて、水はけや水の流れなど考古学のエッセンスが入った舗装をみんなで完成させた。

 さまざまな分野の知識と協力が詰まった庭で「流しそうめん」を楽しんだり、大仏殿を眺めたり、御蓋山(みかさやま)、春日山から昇る月を見たり、薬草園を散策できたりする。

-東大寺境内という環境から受けるものがいろいろとありそうですね。

富和 そうですね。奈良時代に東大寺の光明皇后が中心となり施薬院(せやくいん)という病気や障がいのある人の施設を作った歴史があり、病院の出発点ともいえるその心を受け継いでいきたい。それを具現化する意味もあり薬草園を作った。

 シャクヤク、大和当帰(やまととおき)、ステビア、サンショウ、ウイキョウなど12種類の薬草サンプルガーデンで、薬を作るわけではなく、見て、触って、匂って、風呂に入れたり、食べたり活用する。

 重度の障がいのある人も安心して楽しめるものを専門家からレクチャーを受けて選び、県や県内の会社、大阪・京都の薬科大学からの好意で苗を譲ってもらった。

-利用者の感想を教えてください。

 「今まで病院以外で外出したことが無かったが、この子とお出かけができる日が来るとは思いもしなかった」と自信を持った家族はその後、「ディズニーランドにも行くことができました」と報告してくれました。

 「兄弟が主人公になる時間を作れて楽しかった」という声も多い。病気の子どもの兄弟は知らず知らずにいろいろな我慢をしている。兄弟も楽しめ、兄弟が主人公になれる時間にもなっている。「病気の妹のためにここで誕生日ケーキを作る」と一生懸命作った男の子がいたが、妹のために頑張れる環境が後押ししたようだ。

-これからの活動への思いをお聞かせください。

富和 このような活動が各地に広がればいいと考えている。規模は小さくても、所々にある方が味自慢、場所自慢、ぜひ食べてもらいたい料理など、ローカルなものでご当地性があっていい。

 実際に奈良で利用した人が、必要性を実感し地元の滋賀で「びわこファミリーレスパイト」を作った。このように増えればいいですね。

 地元作家の慈善作品展を行っている。活動費寄付も目的の一つだが、医療・福祉に関係なく美しいものを大事にしたい人に来ていただくと、活動を知っていただくきっかけになる。大変だけど明るくやっているのを感じてもらいたい。

-今、一番伝えたいことは何ですか。

富和 サポーターとして協力できる人をお待ちしています。「私はできることがないから…」「体力が無いので…」と思っている人が多いが、みんな何かしら手伝えることがある。何ができるのか考えるのも楽しい。そこからでもいいので、一度どんな所か見に来てほしい。

 いろんな人とつながることができ、「善き友」と出会ってほしい。

-ありがとうございました。

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