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「新型コロナ 不安に打ち勝つために」心理学の視点でアドバイス 奈良大学・社会心理学博士 太田仁教授に聞く

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 社会心理学博士で公認心理師(心理職の国家資格)でもある奈良大学の太田仁(じん)教授に、コロナ禍で勃発するさまざまな社会課題へアドバイスを聞いた。  

 太田教授は、少年院での法務教官や高校教諭などの教育現場を経て研究者となり、「生きる意欲を支える対人関係」をテーマに対人援助の理論研究と自殺予防などの実践を続けている。新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、経済の停滞により職場の消滅や仕事の消失で生きる意欲が減退し、疑心暗鬼による偏見や差別が人々の絆を弱体化させると警鐘を鳴らす。

-新型コロナウィルス感染拡大防止に取り組みながらの暮らしが始まっています。さまざまな問題が起こりうると思いますが、社会心理学の視点でアドバイスをお願いします。

太田教授 一番大きな問題になっているのが人との距離を保つ「ソーシャルディスタンス」です。公衆衛生的に2メートルは離れることが推奨されますが、普段私たちが話をする際、仲の良い人や親密さを出す時には大体2メートル以内の距離に入ります。さらに親友や恋人の場合は、50センチ以内の距離の中に入ることでお互いの関係性が共有されます。  

 社会では職場の上司や同僚など、一緒に仕事をする人たちは1メートルから1.2メートル以内に入ります。このようにお互いの関係性を示す人との距離を心理学では「パーソナルスペース」といいますが、ソーシャルディスタンスを保つことにより、パーソナルスペースが普段通りに実行できず不自然な事態が社会問題の原点にあります。

 

今は本能を抑制している

-今は人と話すとき、不自然さを感じるときがありますが。

太田教授 これがストレスの一番の原因です。私たちは「アフターコロナ」となった今、「ウィズコロナ」すなわち新型コロナウィルス感染の危険と隣り合わせの時代を生きなければなりません。感染の危険性がある社会で、人との付き合い方をどのように工夫するかというのが一番の課題になります。  

 心理学では実際的な対人関係の構造を「ソーシャルスキル」といいます。「会ったらあいさつをする、あいさつをしてお互いに認め合えたら近寄る、握手をする、親和性を示すためにさらに近づいて話をする」という、これまでのソーシャルスキルの流れではソーシャルディスタンスを保てません。ソーシャルディスタンスを保つことについてお互いがしっかりと了解していないと、「何だ、水臭いじゃないか」といった誤解を生みかねません。  

 新型コロナウィルス感染予防対策とはいえ、これまで仲が良かった人や親密な2人が、そこまで厳格に2メートル離れて交流するのは、誤解を生む危険性があるということです。2メートルはあなたを大切に思うからこその距離であることをお互いに理解し、その抑制的な対人距離を評価する態度が必要です。感染により会えなくなってしまう悲しい事態を回避するために気遣いしていることや、コミュニケーションスタイルに配慮するということが大切になります。

 

スキンシップ・親和欲

-スキンシップで親和性を確認していた人は、突然無くなると不安になるのでは?  

太田教授 人は社会的動物といわれます。だから誰かと一緒じゃないと寂しくて死んでしまいます。自殺が孤独の病気といわれるゆえんです。今回の私たちの命を守る取り組みは、そういう意味でもろ刃の剣でした。幸い、インターネットやSNSを通じてお互いの様子を画像や音声で確認して、辛うじてつながっている実感を維持していました。でも、本当はリアルに会って話したかったのです。  

 そしてお互いが許し合える距離で話して、時にはスキンシップで安心を得ていた。これが本来のコミュニケーションプロセスであったことを確認しておくことは重要です。今は、新型コロナウィルス感染症対策として懸命に本能である親和欲を抑制しているということになります。

 

-これからの店舗のサービス形態について、アドバイスをお願いします。

太田教授 店の対策に対して客は「この店は接客でここまで徹底して安全を管理してくれている。すごいですね、丁寧ですね」と感謝の言葉やメッセージで表現するなどし、一緒にウィズコロナの社会を作ります。

 客の立場としての責任も求められ「これは一体何だ?今までのサービスとは違うじゃないか」ではなく、客の命や衛生を守るという店の心配りに対して評価し賞賛し認めることによってウィズコロナの社会を共に乗り越えようとする心意気で店が作られていきます。

 

怖くて恐ろしいことばかりでは子どもたちは頑張れない

-学校や幼稚園などが再開していきます。この時に何か気を付けることはありますか。

太田教授 学校でこそウィズコロナのソーシャルスキルの指導が要になります。友達と近づいてはだめ、給食の時の楽しいはずのおしゃべりもだめと禁じられますが、子どもたちは今までずっと我慢してやっと学校に行けて、友達とくっついて話をしたり、給食の時もいろいろおしゃべりをしたりしたいのに、それを禁止されると「学校に行ってもなんだか楽しくないからもう行きたくない」と言う子が出てくることも懸念されます。  

 学校の先生はただ単に「おしゃべり禁止」ではなく「今はちょっと我慢して友達のことを大切にしようね」というような声掛けが大事です。保護者も家でそういう言葉掛けをしていただき、「今は工夫してみんなで仲良くなる方法を考えようね」と分かりやすく話をしてあげることが大切です。  

 「席は離さないといけない」など、確かに子どももわかっているのですが、「前は先生が友達と仲良くしなさい」「食事の時も楽しくおしゃべりしながら食べましょう」と言ってたのに、急に怖い顔をして強い口調で言われたり、「先生の言うことを聞かなきゃ病気になったらどうするの」と家の人も言ったりして、怖くて恐ろしいことしかない状況だと子どもたちも頑張れませんよね。  

 学校が始まった今、子どもたちは授業や給食の時には気を付けていても、休み時間や登下校では近距離で話さないではいられないようです。しかも、全員登校となれば、現実問題として教室や手洗い場、トイレの確保が物理的に無理な状況があります。

 

親と子どもの接し方

-自粛が明けたとき、登園(校)しづらい子どもたちの対処方法やヒントをお願いします。

太田教授 長い間、幼稚園(学校)などを離れてしまったので、家の生活との落差が大きすぎます。そんな時、心理学ではまず構造化することから始めます。家での生活や幼稚園での段取りを考えるということです。

 「この時間に起きましょうね、この時間はこうしましょうね」というように、「今、幼稚園だったら何をしている時間かな」と少しずつ話をして、「その時どんなことをするのかお母さんに教えてくれるかな」と繰り返すことによって気持ち的に近づけていきます。

 

-思い出させ、もう一度構築し直す感じですか?

太田教授 そうです。お母さんが子ども役(生徒役)になり、お子さんが先生役になって行うのもお勧めです。「先生だったらこんなとき何て言うかな」と子どもが考えることで、先生に会いたい気持ちが高まってくることが期待できます。

 

子どもや親という立場を変える「ごっこ遊び」

太田教授 心理学では「ごっこ遊び」は「役割取得」といい、いろいろな役割に立つことで、親自身がわが子のその時の気持ちへの共感性を高めることができます。  

 ただ、子どもの身体に異常がない限りは、どの年齢の子どもも登校を促すところから始めるのが基本です。「嫌だ」「それは無理」とか言っただけで、親が過剰反応して登校を見合わせる必要はありません。

 学校の先生よりもお医者さんよりも、わが子の様子を見ているのは家族なのです。わが子の様子から、怠惰な生活に甘えているだけなのか、本当に不安や恐怖から身体症状が出ているのかをきちんと見分けて対応してください。  

 

「ちゃんとつながっている」安心感

-自粛明けは大人でも切り替えが難しいと思いますが、子どもたちは特に注意が必要だということですね。最後にメッセージをお願いします。

太田教授 新型コロナウィルス感染拡大防止対策で、人や社会が工夫したことに対して感謝の言葉で表現しメッセージにすることで、相手が満足を得られ、受け入れられたと実感でき、社会がより良い円滑な関係になります。

 いろいろなリスクがあると思いますが、そのリスクを減らすために皆さんができることは「ちゃんとつながっている」という実感が生きる意欲を支えていることを忘れないでください。

 

-ありがとうございました。

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