母鹿が出産ピークを迎え、多くの新しい命が誕生している奈良公園では、これからの時期、自動車の運転時には特に鹿の飛び出しに注意が必要になる。鹿の飛び出す原因について「奈良の鹿愛護会」で話を聞いた。
同会によると、今年交通事故で死亡した鹿は93頭(2014年7月16日~2015年7月15日)、85頭(2014年)、100頭(2013年)と、毎年100頭近くが命を失っている。
交通事故が一番多かった場所は「国道169号線県庁東交差点~福智院交差点間」。38件の事故があり、うち25頭が死亡した。続いて「国号369号線県庁東交差点~近鉄奈良駅付近」「大仏殿交差点~高畑町交差点間」「県庁東交差点~奈良春日野国際フォーラム付近」「県庁東交差点~転害門前交差点間」。上記場所以外にも58件の事故があった。
同会では、妊娠した鹿が安心して出産できるようにと保護もしているが、すべては保護しておらず、自然の中で出産している鹿も少なくない。同会で保護している母鹿、子鹿も7月中には奈良公園に放されて、それぞれの縄張りに戻る。
鹿の出産は、5月中旬~6月中旬がピークで8月上旬にはほぼ終わるという。鹿と人が共生する奈良。人との共生にまだ不慣れな鹿が道路へ飛び出し、事故に遭うケースも少なくない。事故に遭う鹿も1歳~2歳が多いという。鹿が飛び出す原因としては、母鹿が道路を横断した後を子鹿が付いて渡るケースや、道路の対面から餌を与えることで餌に目がくらみ飛び出すこと、犬にほえられて驚き飛び出すなどさまざまな要素がある。
1列になり移動するという鹿。群れの中の弱い鹿が、強い鹿に「先に行け」と言わんばかりにお尻を突かれて道路に飛び出し、安全を確認してから他の鹿が横断するケースなどもあるという。1頭が道路を横断したからと安心していると続いて鹿が飛び出してくることも。
夜になると寝床に移動し、2時間程度で移動を繰り返し睡眠するという鹿。事故は特に深夜や早朝が多く、県外ナンバーの車が目立つという。走行中に道路を横断する鹿に対してクラクションを鳴らす行為は逆効果だ。鹿が「何だろう?」と立ち止まってしまう。鹿が横断していた際は、ゆっくりと近づき停車して横断を待つのが懸命だ。
奈良公園の鹿でよくある誤解として、同会や行政が鹿を飼育しているという説があるが、鹿はあくまでも野生で、奈良公園を中心に南は約1キロ、北には約2キロまで範囲が及び、山林はもちろん住宅街エリアにも縄張りを持つ鹿もいる。野生動物を個人が捕まえることや、傷付けることはもちろん違法行為となる。
奈良公園から離れた場所なら大丈夫と安心していると、こんな所からと思うような場所からの飛び出しも。1メートル80センチの柵を飛び越えるといわれる鹿のジャンプ力、隣にフェンスがあるから大丈夫と安心しても飛び越え道に飛び出すことも。
奈良の鹿が信号を守る。SNSサイトなどで横断歩道を渡る鹿の姿を捉えた投稿も多くあり誤解を生むきっかけの一つにもなっているが、鹿はもちろん信号を理解していない。
もし鹿をひいてしまった場合はどうすれば?――天然記念物に指定されている奈良公園の鹿をひいてしまうと罰金を取られたり、逮捕されたりするなど重い罪を科せられると誤解している人も少なくなく、事故をしてもそのまま逃げてしまう人も。しかし、悪意のない場合は罪に問われることはない。同会は「早く処置することで助かる命もある」と呼び掛ける。
ほかにも、奈良の鹿は「鹿せんべいが大好き」ということを「鹿は『せんべい』が好き」と誤解し、大量のせんべいを持ち込む人もいるという。鹿にお菓子などを与えることで鹿の健康を害する恐れがあるので注意が必要だ。道路にまかれた餌を食べて事故に遭うこともあるという。
同会の藤本康之さんは「奈良公園を走行する時は、気を付けて走ってほしい」と呼び掛ける。人間社会に不慣れな子鹿たちに思いやりを持った運転が必要だ。
問い合わせ先は、奈良の鹿愛護会(TEL 0742-22-2388、8時30分~17時15分)、夜間の連絡は奈良警察署(TEL 0742-20-0110)、鹿が道路に倒れてしまっているなど2次災害の危険性があるような緊急性のある場合は110番へ。