新年度前に「拡大教科書づくり」大忙し-香芝のボランティアグループ

PCでの拡大教科書製作を説明する坂田さん

PCでの拡大教科書製作を説明する坂田さん

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 目の見えにくい弱視の児童、生徒のための「拡大教科書」を手がける奈良県内唯一のグループ「香芝拡大写本トンボの会」が、新年度開始を前に追い込み作業に入っている。同会代表の坂田高良さん宅では、近所の主婦らも協力しての校正作業が進む。

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 2年前に有志が集まりボランティアグループの同会を発足。今年製作する教科書は2冊で、昨年10月から取り組んできた。

 拡大教科書は、かつては数万円もの高値で提供された。今では義務教育のものに限り無償提供されているが、製作の多くはボランティアグループが担う。

 同教科書の製作は、学校で使われている教科書を拡大すればいいといった単純なものではなく、仮に文字が見えやすい大きさにまで教科書自体を拡大するなら、サイズは新聞紙ほどにもなり、持ち運びはおろか、机の上で広げることすらできない。さらに、弱視による視野の極端な狭さは、ページが広いほどに全体像、さらには文章や図のつながりの把握を難しくする。また、横線が細く見えづらい明朝体などの書体はすべて変更する必要もある。今年、同会が取り組んでいる拡大教科書の製作では、1冊の教科書が理科では4冊、数学では7冊にも分冊されることになった。

 細部にまで配慮の行き届いた手作りのレイアウトについて、坂田さんは「個人個人で見えやすい文字の大きさや太さが異なるので、製作はすべてオーダーメード。なるべくレイアウトを変えないよう工夫しながら、親との相談も重ねて構成している」と説明する。使いやすく、楽しんで勉強をしてもらえる拡大教科書を、というのがスタッフ全員の願いだ。

 製作から校正、製本にも膨大な手間がかかるが、坂田さんは「喜んでくださるご本人や両親の姿に、みんな定年を過ぎているけど社会の役に立っていると感じる。我々の力が付いて、余裕ができればもっと多くの人に役立てるようにしたい」と話す一方、「本来はもっと教科書会社が乗り気になるべき。ボランティアが必要でなくなればと切に願っている」と思いを向ける。

 2003(平成15)年のデータでは、弱視児童1,739人のうち、拡大教科書が行き渡ったのは632人。文部科学省は教科書会社に拡大教科書の製作を指示してきたが、一人ひとりの理想的な文字の大きさなどが異なることが出版の大きなネックとなり、実現は難しいとされる。

 教科書会社からのデジタルデータの提供も始まったが、わずかに文字データが提供されたのみ。図や写真はスキャナで取り込むしかなく、実費で行えば大きな費用がかかる。こうした実態に、複写機、レーザープリンターなどを手がける富士ゼロックス(東京都港区)が協力する。

 全国の富士ゼロックス販売拠点では、教科書のスキャニングによる絵図や写真のデジタルデータ化、出来上がったデータの印刷など、拡大教科書製作のための協力を無償で行い、昨年12月には、こうした功績から「バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰」の「内閣総理大臣賞」を受賞している。

 同関西東海支社社会貢献推進担当マネージャーの尾崎実さんは「(受賞は)社会的な認知が低く、いちばん辛い思いをしている弱視の皆さんへの長年の支援が認められたと思う」と振り返る。「拡大教科書は全ての子に行き渡っているわけではないので、今後もボランティアの皆さんへの支援をしていきたい」と決意を新たにする。

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