奈良・若草山で炎の祭典、若草山焼き-消防団員が年に一度の点火

一気に勢いを増した炎

一気に勢いを増した炎

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 若草山で1月28日、冬の祭典「山焼き」が行われ、古都奈良の夜空を赤く彩った。

熱風と火の粉が団員らを襲う

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 春日大社、興福寺、東大寺の神仏が習合して、先人の鎮魂と慰霊、奈良の防火と世界の人々の平安を祈り、約33ヘクタールある若草山に火を放つ同行事。毎年多くの観光客が訪れ、炎の祭典を楽しむ。

 この日だけは、消火ではなく火を付ける役目を担うのが地元の奈良市消防団だ。15分団の約300人が山全体に広がり一斉に火を付ける。各分団の担当エリアはローテーションで変わり、7~8年に一度、多くの観光客が見守る山の麓から一番近い場所の1重目を担当する。

 今年は、1重目の北側を東市分団が担当した。同分団からは13人が参加。分団長の藤井伸さん(61)は消防団暦25年、この山焼きにもほぼ毎年参加しているベテラン。

 長年の経験もあり、点火前でも落ち着いた様子で団員に指示を出す藤井さん。過去には山の中腹を担当した際、下から上がってくる火と前にある炎に挟まれて横に逃げるしかなかったなど、危険な体験もあったという。一歩間違えれば命の危険もある任務。団員らの安全を第一に考える。

 当日、17時からの出発式の後、山を登り配置に付き、18時15分から東日本大震災や紀伊半島豪雨災害の復興を祈願した約600発の花火が打ち上げられた。すぐ先で上がる花火を迫力満点で楽しむことができ、団員らの顔もほぐれる瞬間だ。

 花火が終わった18時30分すぎ、柳生ラッパ隊のラッパの音色が山に響き渡ると点火の合図。団員らは、たいまつを手に枯れ草に火を付けた。

 今年は枯れ草の燃えるスピードが遅いエリアも少なくなかったが、東市分団の担当した場所は違った。点火直後は少しくすぶるも、一度火が付くと炎の勢いは一気に増した。点火から5分ほどで目の前には身長よりも高い約2メートルほどの炎の壁ができ、次に肌を焼くような熱風と火の粉が団員らを襲った。激しく吹きつける熱風は呼吸もしずらくなるほど。余りの熱風に「熱い」と顔を背けることもあったが、団員らは真剣な表情で炎の行方を見守っていた。10分ほどたつと、燃え盛る炎は昇竜のように渦を巻きながら、山肌を上がっていった。

 炎が山を登った後は、焼けた山肌を登り焼け残った枯れ草を燃やしたほか、15キロほどあるジェットシューターを背負って残った火を消し、消火を確認して回っていた。

 「この伝統行事には体が続く限り参加していきたい」と話す藤井分団長。山焼きを終えて、「けがもなく、よく燃えて良かった」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。

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