伝統行事「鹿の角切り」支えて30年-ベテラン勢子の京谷さんに感謝状

記念品として贈られたシカの角を手にする京谷治広さん

記念品として贈られたシカの角を手にする京谷治広さん

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 古都奈良の秋の伝統行事「鹿の角切り」は10月11日の15時過ぎに、最後のシカの角を切って終了した。9日は雨のため中止になったものの、10日・11日の2日間で32頭の角を切り約4,000人が訪れた。この伝統行事の支える勢子(せこ)として30年間参加してきた京谷治広さん(46)に「奈良の鹿愛護会」の大川靖則会長から、感謝状と記念品のシカの角が贈られた。

ベテラン勢子でもシカを押さえる時は、一瞬の気も抜けない

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 角切りは、楕円(だえん)型の角切り場に3頭ほどのシカを追い込み、勢子が赤い旗の付いた竹の棒を持って並び、シカを縁(ふち)に沿って走らせるように誘導する。クロスさせた竹の回りに縄をかけた「十字」と呼ばれる道具をシカの角目がけて投げ、角に縄をかけて、縄を持ってシカの動きを止めると、徐々にたぐり寄せて暴れるシカを押さえて捕らえる。

 シカの走るスピードは時速50キロメートルにもなるといわれ、硬くとがった角を持つシカを捕らえるには危険が伴い、縄をつかんでシカを止めようとするも勢いに負けて引きずられてしまうこともある。取り押さえてからも気を抜くとシカは暴れ出し、けられてしまうことや角で突かれることもあり、一瞬の気も抜けない。

 「みんな好きでやっている」という勢子は奉仕で行事を支える。長年にわたり続けられている伝統行事であり、危険が伴うことから格式高く、上下関係も厳しい。行事中は勢子の威勢のよい声が飛び交うなど、勢子の勇壮な姿がこの行事の魅力の一つだ。

 奈良生まれ奈良育ちで、父親が勢子をやっていたことから、幼いころから父の活躍を見て勢子にあこがれていたという京谷さんだが、初参加した年に腹を角で刺されたこともあったという。

 それから30年。先輩の背中を見て技術を学び、今では勢子の中で3番目のベテランで、若手勢子からも一目置かれる存在だ。そんな京谷さんが、何年も同じ物を着ているという法被の下に着ている長袖のアンダーウエアには、シカに挑み続けてきた勲章ともいえるまん丸とした大きな穴が開いている。

 当時は、シカを素手で捕まえていたほか、シカを誘導する時も、今よりも近くに寄っていたことから、速いスピードで走るシカの角が体をこすることも。しかし、腰が引けてしまうと、その少しのすき間からシカが違う方向に走ってしまうことから他の勢子を危険にさらすことになるため、逃げることはできないという。

 現在は後輩勢子の指導を中心に行う京谷さん。勢子としての心がけはとにかくけがのないように、そして、必死に逃げ回るシカは、長い時間走ると弱ってしまうため、できるだけ早く捕まえることだといい、「伝統的な行事なのでケガのないよう、つなげていってほしい。(自身については)自分があかんと思うまでは続けたい」と話す。

 最後の角切りを終えて角切り場を出てきた京谷さんは「大けがなくて良かった」と笑みを浮かべた。

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