多くの文化財が存在する古都・奈良。奈良市は県内最大の都市という顔も持ち、約37万人の市民が生活する。そうした市民の生命と財産を守る奈良市消防局の予防課を率いる中村輝安予防課長(60)が3月末で定年退職する。消防人生40年、「あっという間だった」と語りながらも、振り返ればさまざまな思い出がよみがえる。
高校卒業後約2年間は奈良市内の市場へ勤務、1970(昭和45)年に消防士となった。新人の時、自宅付近の材木店で火災が発生し現場へ。防火服もなく、水をかぶって現場へ飛び込んだこともあったという。その後、現在の救助隊にあたる「機動隊」や予防課勤務を経験した。
予防課では火災鎮火後の現場で、出火原因を究明するための調査を担当。多くの現場で死者の姿を目の当たりにすることもあった。「二度とこんな火災が起きてほしくない」という思いを胸に、懸命に調査にあたったという。
2008年には同局南消防署の署長に就任。管内の大規模商業施設で消防訓練などを積極的に実施した。避難時の良い点悪い点を理解してもらうため、対象者から回収した「消防検証アンケート」を集計し分析し、パソコンを使って図面を加工してお手製の「検証表」を持って再び施設を訪問するなど、中村さん独自の方法で「もしもの事態」の備えを徹底的に伝えた。
翌年に予防課長に就任。同年6月1日からは市内の既存住宅での住宅火災警報器(住警器)設置義務化が始まり、住警器の重要性などを市民に呼びかけ、市民の防火・防災意識の向上に尽力した。間もなく定年を迎えるが、「40年の消防人生に悔いなし、一生懸命やりきった」とさわやかな笑顔を見せる中村さん。今後も後進の指導にあたるなど、同局を支えていきたいと語る。