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「奈良ツバメねぐら研究部」が注目を集める理由 日本最大級、6万羽のツバメのねぐら入りルートを探る「市民参加型」の壮大な挑戦 

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 世界遺産・平城宮跡(奈良市二条大路南3)に毎年、ツバメが夜を過ごす「集団ねぐら」が形成されている。最盛期の7月下旬~8月には最大6万羽のねぐら入りが確認されており、日本野鳥の会発行の改訂版「ツバメのねぐらマップ」によるとその数は日本最大級。

平城宮跡の玉手門ねぐら平城宮跡のヨシ原の一つ「玉手門ねぐら」付近からの景色 (朱雀門・近鉄電車・若草山)

 「奈良ツバメねぐら研究部」のメンバーは岩井明子さん、西田好恵さん、三輪芳己さんの有志3人。岩井さんは、2012(平成24)年から平城宮跡で観察記録を取り始め「春の渡り」から、秋に南への渡りが始まり全てのツバメが南下するまでのほぼ毎日観察し、ねぐら入り総数などを記録している。長年の調査研究が実を結び、その取り組みが今、さらに注目を浴びている。「ツバメのねぐら入り」やこれからの活動についてメンバーに話を聞いた。(以下、敬称略)

平城宮の正門「朱雀門」前で 左から、西田好恵さん、三輪芳己さん、岩井明子さん

鳥類研究に特化した「バードリサーチ 調査研究支援プロジェクト」に認められた研究

岩井 日々の観察や調査結果を蓄積し、行動の傾向や年ごとの変化を解析している。観察会や企画展・講座・ツバメ折り紙教室の実施を通じて、多くの人にツバメに対する興味を深めてもらい、将来的にはツバメの生息環境の保全につなげたいという思いで活動を続けている。2020年12月に鳥類の調査研究に特化したNPO法人「バードリサーチ」の「調査研究支援プロジェクト」選考に応募し、私たちの研究部が支援対象に選ばれた。

「奈良ツバメねぐら研究部」の取り組みが期待される理由

同プロジェクト事務局・高木憲太郎さん 奈良ツバメねぐら研究部の調査は市民参加型の調査で、みんなで力を合わせる楽しさ、個体数が増えた謎を解き鳥たちの生きざまを明らかにする「わくわく感」がある。支援の輪が広がり、良い成果が得られることを期待している。

ツバメの一年と「平城宮跡のねぐら入り」

西田 ツバメは早春、南の国から日本に渡って来る(春の渡り)。平城宮跡に立ち寄ったツバメは大極殿西側の池周辺の木にねぐらを形成(春ねぐら)。その後、繁殖のため人家の軒先などに巣を作り卵を産み子育ての時期を迎える。ひなが成長したり巣立ったりするころから再び平城宮跡にねぐら入りする。巣立った若いツバメも加わり、ヨシ原をねぐらとする(夏ねぐら)。2020年は3カ所のヨシ原が利用された(大極殿ねぐら・朝堂院西ねぐら・玉手門ねぐら)。秋に南への渡りが始まり、冬には日本を離れ暖かい南の地域で過ごす。

大極殿ねぐらに集まるツバメ

三輪 私にとって平城宮跡は幼いころ遊んだ身近な場所。大人になってツバメのねぐら入りのことを知り、数年前に初めてその光景を見て、すっかりとりこになった。地元・奈良の素晴らしさを気付かせてくれた。

切実な自然環境の変化

西田 平城宮跡が歴史公園に整備されるずっと前から野鳥を観察しているが、数が減ってきている。普通に見ることができていた渡り鳥も立ち寄らなくなって、たくさん見ることができた「ケリ」の子育ては、今では珍しい光景になってしまった。だから「ツバメのねぐら」は守り続けたいと思っている。

池に氷が張った日の野鳥の様子 マガモ・コガモ・オオバン

岩井 これまでの調査で平城宮跡のねぐらに集まるツバメの総数は増加傾向にある。その原因の一つとして、他のねぐらが開発によって消失した影響があるのではないかと考えている。

平城宮跡のねぐら入り総数の経年変化

さまざまな疑問

三輪 「ツバメはどこから平城宮跡に集まって来ているのか」「ねぐらを失ったツバメが本当に平城宮跡に来るのか」など、さまざまな疑問が湧いてくる。2020年の夏はコロナ禍でたくさんの人が集まる観察会ができなくなった。そこで、この機会に従来の観察会の代わりに家や近所で平城宮跡に向かうツバメを観察して、ねぐらへの移動ルートを探ろうと考えた。

コロナ禍にも対応したツバメ観察

西田 STAY HOME企画として「奈良つばめねぐら子ども研究部」「日本野鳥の会奈良支部」などに調査への協力を呼び掛け、「STAY HOMEでできるツバメ観察」を実施し、延べ118人・47地点の記録が集まった。

 ツバメがねぐらへ移動すると思われる時間帯(17時~日没)に各所でツバメの行動を観察し、時間・場所・数・飛翔方向を記録する。観察記録はメール、SNSへの投稿などで報告してもらい、貴重な記録がたくさん寄せられた。

 「場所は、橿原市大谷町の奈良県果樹試験場跡地(スイセン塚古墳)。17時~18時の間は5分~10分おきに1~10羽が飛んできた。18時15分ごろが最大で、50~80羽位がスイセン塚古墳上空を旋回して森に消えた。その後、断続的に数羽~数十羽が集まってきては森に消えた。18時40分ごろにはツバメはほとんどいなくなり、日没と同時に大量のアブラコウモリが畝傍山から飛び出してきた」
 「19時から唐招提寺の森や、尼ヶ辻天神の森の上空に徐々に集まり始めた。  5羽~40、50羽ずつ平城宮跡方面に飛んで行った。19時15分まで観察して合計320羽」
「住宅近くの電線がツバメの集合場所の一つになっているように思える」「神社の上で餌を取っている姿を見た」

岩井 奈良中部からはツバメが森や竹林に入ったという報告があり、ツバメの声も確認されているので、ねぐらとして使われているのかもしれない。県内には平城宮跡以外にも知られていないねぐらがありそう(近いところでは京都府木津川市でねぐら入りの様子が確認されている)。

夏の夕焼け空を飛び交うねぐら入りの光景

移動ルートの解明

三輪 観察時間中、途切れることなくツバメが上空を通過する地点の報告があった一方、ツバメが全く観察されなかった地点もあった。これは単にタイミングによるものなのか。それとも平城宮跡へは常に同じルートで移動するのか…。

西田 調査結果から平城旧跡に近づくにつれて集団が大きくなっているのが分かる。各所のツバメが集結してねぐらを目指しているのではと推測されるが、6万羽のツバメのルート解明にはまだまだ及ばず、さらなる調査が必要。

 来季も、ねぐらへの移動ルートを明らかにするための調査を継続したい。2020年度は任意の場所での観察としたが、今回の結果を踏まえて調査地点についても検討する予定。興味を持った人は老若男女問わず、ぜひ調査に参加していただきたい。

岩井 コロナ禍でも楽しくできるツバメ観察。ねぐらへの移動ルートを明らかにするのは皆さん。夏の夕空を見上げてねぐらに向かうツバメを探していただけたら。

市民参加型の調査で「ねぐら入りルート」を探っていきたい

岩井 予定している次の調査は2021年7月下旬~8月上旬。場所は奈良県下または隣接する地区。目的は、(1)平城宮跡をねぐらにするツバメの移動経路を明らかにする。(2)調査結果を蓄積し、行動の傾向や年ごとの変化を解析する。(3)調査に参加することで、より多くの人にツバメに対する興味を深めてもらい、将来的にはツバメの生息環境の保全につなげたい。

 調査の詳細や「ツバメのねぐら」の様子は準備ができ次第、「奈良ツバメねぐら研究部」のSNS(ツイッター、フェイスブックページ)などでお知らせする。問い合わせはメールで受け付けている。

 

ツバメのことを詳しく知る企画 

2020年度観察報告パネル展示「平城宮跡で寝るツバメはどこから集まって来るのか? ~6万羽のねぐら入りルートを探る~」

◆開催期間=1月23日~2月28日(2月8日は休館)

◆会場=平城宮跡歴史公園「平城宮いざない館内」(奈良市二条大路南3、TEL 0742-36-8780)

◆入場無料

昨年のパネル展示の様子

 

「バードリサーチ 調査研究支援プロジェクト」に認められた研究 http://www.bird-research.jp/1_event/aid/BR-aid2020_kifu.pdf

 

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